認知症の症状は「中核症状」と二次的症状の「行動・心理症状」に分類できます。
「中核症状」と二次的症状の「行動・心理症状」
- 本格的症状の中核症状…認知症の人の誰でもが現れる症状
- 中核症状よって二次的に生じる行動・心理症状…その人の性格・素養・環境・心理状態、感染症や脱水などの身体的な疾患や薬の副作用、周囲との軋轢やストレスなどが引き金になって現れる症状で個人差がある
中核症状…認知症の人の誰でもが現れる症状
記憶障害
- 物忘れ、記憶力の衰え
- アルツハイマー型認知症に顕著に表れる
- 最近のことから忘れる
- 一時的に記憶したことを自分の記憶の中に刻み付ける作業が苦手になる
- 十分に情報を覚えこんでいないので、覚えたつもりの記憶がすぐに消える
見当識障害
- 自らが置かれている時間、場所、状況などが正しく認識できない
- 生活状況や自分自身の存在を客観的に正しく認識できない
- 現在の年月や時刻、場所や誰と生活し、誰と話をしているかなどの状況を把握できない
- 現状が把握できないため、時間や場所など尋ね、確かめる
- 記憶力の衰えと結びつき「尋ね、確かめ」を繰り返す
実行機能障害
- 物事の段取りを考え、順序立てて物事に取り組むことができない
- どの順番で何をしたらいいか見当がつかない
- 次にすることに確認や迷いが多くなり、物事に取り組むスピードが遅くなる
- 一つのことを考えると、ほかに気を配ることができなくなる
- 二つ以上のことが同時にできなくなる
- 料理、トイレ、入浴、外出の準備など、今までできていた日常的な行為ができなくなる
失認
- 視力や聴力問題はないのに、目の前の物が認識できない
- 自分の身体の状態や自分と物との位置関係の認識ができない
- 目の前にあるものが何かを認識することが難しくなる
- 身体の部位の場所がわからなくなる場合もある
失行
- 運動機能には問題はないのに、目的通りの行動がとれなくなる
- ズボンを履こうとするが、どうしていいかわからない
- 動作の順番や、道具の使用方法がわからなくなる
失語
- 言葉を忘れたり、言葉を理解ができない
- 話の内容がわからない
- 言葉が出てこない
抽象思考の障害
- 物の共通点や違いが判らない
- 計算が苦手になる
- あいまいな表現がわかりにくい
- 服のコーディネートができなくなる
- お金の計算ができない(買い物ができない)
- 善悪や危険の判断ができない
判断の障害
- 場面や状況に合わせた行動の判断力の低下
- 予想外の出来事に、とっさ判断ができない
- 困っていても、誰かの助けを借りるという判断も浮かばない
- 自分で何とかしようと、意地を張って状況を悪化させる
行動・心理症状…中核症状よって二次的に生じる個人差がある症状
徘徊・不安感・焦燥感
- 徘徊…あてもなく歩き回る、思い立ったようにふらりとどこかに行ってしまう。どこかに行こうと思い、結局迷ってしまう。時には行方不明になってしまう場合もある
- 不安感…人間関係などの微妙な摩擦や軋轢によっておこる
- 焦燥感…不安感からくるイライラ
幻覚・せん妄
- 幻視(特に多い)…実際には見えるはずのないものが見える
- 幻聴・幻覚…誰も話していないのに話し声が聞こえる
- せん妄…一時的に意識が混濁(夢うつつのような状態)し、夢か現実かはっきりしない
- 特に夜間に突然落ち着きがなくなり、興奮して動き回り、話も通じない状態になる
妄想・作り話・拒絶・暴言・暴力
- 妄想…物盗られ妄想や、嫌がらせをされている被害妄想など
- 作り話…(自分の感情と折り合わせようと)実際の出来事と異なる話をする
- 拒絶…周囲のアドバイスを聞かない
- 暴言・暴力…自分の思いが通じなかった時に生じる。突然怒り出し暴力をふるう
うつ状態・不潔行為・睡眠障害
- うつ状態…意欲の低下、気分の落ち込み
- 不潔行為…トイレなどの後始末がうまくいかず、いろんなところを汚す
- 睡眠障害…日中寝てしまって夜間眠れないなどの、睡眠の乱れ
食行動の異常
- 異食…食べ物とそうでないものの区別がつかず、食べられないもの(食品ではないもの)を食べてしまう状態
- 過食…食べたことを忘れるため、たくさん食べてしまう状態
- 拒食…食べ物を食べない状態
行動・心理症状の現れ方
- 中核症状の見当識の力の衰え
- 自分がいる場所や周りの人が誰かがわからない
- 「ここはどこ?」「あなたは誰?」で混乱した状態になり
- もともとの性格の心配性やさみしがり屋などの自分自身の性格が重なり
- ますます不安が大きくなって
- 徘徊や興奮、暴力行為の行動・心理症状が現れる
- 記憶力の衰え
- 最近の記憶が失われているため、
- 目の前の物と、記憶の中にあるものが混乱し
- 異常行動などの症状が現れる
- 状況を判断する力や記憶の衰え
- 自身の困難に直面した時、頑張って問題に立ち向かおうとするが
- 計画通りに取り組むことができないことが裏目に出て
- この頑張りが裏目に出て、問題行動につながる
行動・心理症状のとらえ方
- 性格や特性、今いる場所の環境などによって異なるので理由や動機が同じでも、その時に取る行動が異なる
- 認知症の人が、自分自身の困難に直面したとき、助けを借りようとは思わず、自分の力を活かして、問題に立ち向かおうとするが、計画通りに取り組むことができず、問題行動につながる
認知症の心理
認知症の人は、認知症という自覚がなくても、何かが普段と違うことは感じています。
拒絶の心理
- 一生懸命目の前の課題に取り組むが、小さな失敗が増え、怒られたり責められたりと、自信を失い、新しいことを取り組むことに慎重になる
- 馴染んだ生活パターンから外れていることで、周りの反応に怯え、外部の行事など拒絶し、家に閉じこもってしまう
作り話の心理
- 今までできていたことが、できない自分にいら立ちを感じつつも、理由がわからず強い不安感を抱いている
- 「できない自分」と向き合うことを回避し、自分自身を納得させるように自分を正当化する
暴言・暴力の心理
- 物忘れがひどいと感じている人ほど、物忘れの症状を強く否定し、責任転嫁し身近にいる人をせめて、自分を守ろうとする
- 自分に向ける憐れみや、責めるような視線に気づく人ほど、誰かを攻撃し自分の優位性を保とうとする
- 身を守ろうとする力が強く働くほど、怒りの言動が、暴言・暴力に発展する場合がある
- 認知症の人自身が、気持ちや行動を正しく掴んでほしいという周囲への訴えという考え方もある
体調不良からくる心理の変化
- 便秘や脱水症状、あるいは発熱などの身体的な不調が、焦燥やせん妄を生じさせることがある
- 薬の副作用によって物事を認識する力が低下し、幻覚など、あらゆる症状が悪化する場合がある
60歳を過ぎると、腸内細菌の組織が変わり、悪玉菌が増加して、善玉菌急激に減少。腸内細菌が生み出した有害物質が、迷走神経や血管、リンパ管を通ってからだのあらゆる場所で問題を引き起こす原因となります。…(中略)…認知症やパーキンソン病、うつ病の原因となる毒素を生み出したり、有毒なガスを発生させたり、様々な悪さをする凶悪な悪玉菌が増えます。
「腸の教科書」より 江田クリニック院長・江田証著」
周囲のサポートが症状を和らげる
- 周囲が認知症を理解し、認知症の人の生活を見守り、不都合が生じにくい環境や、適切なサポート体制を整えてあげれば、大きな混乱や不安を感じることなく、本人も現状を少しずつ受け入れていくことができる
- 行動・心理症状は、認知症の中核症状が表れたときに、「自分一人の力で乗り切ることが難しくなったので助けてほしい」という、認知症の人からのSOSのサインといえる
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